Vol.392事業転換・再編

メンバーズの事業転換—案件を手放す速度と、人が次の仕事に移る速度をそろえる

低単価案件からの撤退とAIサービスへの移行を、受注・育成・配置の時間差から考える

2026年10月22日
8 min read
#事業転換#AI活用#人材育成

運営:あまねキャリア株式会社 · 更新日:

30 Second Brief

何が起きたか
メンバーズは低単価案件からの撤退とAI領域への転換を進める中、次の仕事の売上化が遅れ、業績予想を修正した。
判断の理由
会社は顧客需要の変化を受けて成長の軸をAI活用支援へ移す方針だが、商談から売上までの時間差が課題となった。
自社への示唆
撤退で空く時間を新事業の供給力と同一視せず、受注段階、実務での育成、社員配置を一つの計画でつなぎたい。
EXIT
Letters by あまねキャリア

メンバーズは低単価案件からの撤退を進める一方、AI関連商談の売上化に想定以上の時間を要したと説明した。撤退の是非だけでなく、受注・育成・配置をつなぐ移行期間の設計から、事業転換の教訓を考える。

1. 直近の事例を調査する

伸びにくい仕事を減らし、将来性のある仕事へ人を移す。方向として納得できる事業転換でも、二つの動きが同じ速さで進むとは限らない。デジタル分野の企業支援を手がけるメンバーズの開示は、その時間差をどう経営するかという問いを投げかけている。

同社は2026年9月30日、業績予想を下方修正した。公式資料では、従来型のWeb運用を中心とする低単価・低成長案件から計画的に撤退する一方、次の事業の拡大が遅れたと説明している。顧客の投資削減や、生成AIによる定型的な実行業務への需要減少も挙げており、撤退だけを業績悪化の原因とする説明ではない。

さらに10月9日の質疑応答では、AI関連の商談が本格的な売上になるまで、想定以上の期間を要したことを明らかにした。ここでいうAXは、AIを使って仕事の進め方や事業を変える取り組みである。新しい需要を見つけても、それが契約となり、社員が仕事を担い、売上に結びつくまでには距離がある。

一方、9月30日には、企業のマーケティング判断を支える「AI-CMO」の構築・定着支援サービスも発表した。会社固有の知識を取り込むAIを作り、日々の業務に根付かせるまで支援するという内容だ。新サービスの提供開始は確認できるが、それだけで転換の収益成果が確立したとはいえない。以下は、この公表事実を踏まえた編集部の見立てである。

2. 事例を元に分析する

注目したいのは、撤退で空く時間と、新しい仕事に使える時間の違いだ。契約が終われば、担当者の予定表には空きができる。しかし、その人が翌日から別の課題を解けるとは限らない。顧客の業務を理解する時間、練習する時間、経験者に相談する時間が必要になる。空いた時間は、そのまま販売できる能力ではない。

営業側にも別の時計がある。顧客がAIに関心を示しても、予算の承認、利用データの整理、社内の役割分担が決まらなければ仕事は始まらない。提供側のサービスが完成する日と、顧客が発注できる日は異なる。事業転換では、この二つの日を一つの計画に押し込めると、売上が生まれる時期を早く見積もりやすい。

また、低単価の案件を減らすと、残った案件の平均単価は上がり得る。これは経営改善の一面だが、同時に仕事のない時間が増えれば、会社全体の採算は改善しない場合がある。平均単価は「売れた仕事の質」を、稼働率は「人の時間がどれだけ仕事につながったか」を見る手掛かりであり、片方だけでは移行の健康状態を読み切れない。

だからといって、以前の仕事へ戻れば解決するとも限らない。需要の変化が続くなら、従来の案件を増やすこと自体が難しくなる。編集部は、問題を撤退の正誤だけで評価するより、移行期間に何を確かめ、どの段階で計画を直すかという設計として捉えたい。変化を予測しきれなかった人を責めても、次の受注は早まらないからだ。

3. どうすればよかったかを考える

ここからは同社の内部運用の欠如を断定するものではなく、似た転換に取り組む企業への提案である。まず、撤退する案件ごとに、担当者の次の仕事を具体化する。単に「AI領域へ再配置」と書くのでなく、誰がどの顧客課題を担当し、どの技能を補い、誰が実務を確認するかまで決める。異動先の名称だけでは、受け入れ準備ができたかは分からない。

次に、商談を件数だけで管理しない。関心表明、課題の合意、予算確保、契約、業務開始を分け、それぞれに進むまでの実際の日数を記録する。たとえば提案は増えているのに予算確保で止まるなら、必要なのは営業件数の積み増しより、小さく導入できる契約や費用対効果の説明かもしれない。これは一般的な仮説であり、同社の顧客に特定の停滞があったと主張するものではない。

人材育成も、受講人数と仕事への参加を区別したい。研修を終えた人が、経験者と組んで有償案件を担当し、顧客の確認を受けるまでを一つの移行として追う。学習に時間がかかる社員には、小さな担当範囲から始められる仕事を用意する。既存顧客への理解や品質を守る経験は、新しい技術を使う場面でも土台になる。

そのうえで、転換の予算には売上が遅れる場合の余裕を持たせる。新サービスの費用は発生するが、受注は数カ月後になるという状況を別に試算する。耐えられる期間を把握しておけば、案件撤退の時期、採用、育成対象の広げ方を落ち着いて調整できる。将来の期待を捨てるのではなく、期待が実現するまで人と事業を支える準備である。

既存顧客との対話も欠かせない。更新を止める契約、条件を変えて継続する契約、AIを使う支援へ組み替える契約を分け、担当者が説明できるようにする。引き継ぎや問い合わせ対応を最後まで担う工数も、次の仕事に使える時間から差し引く。撤退後の予定を楽観的に埋めないことが、顧客への約束と社員の学ぶ時間の両方を守る。

もう一つ有効なのは、次の判断日を先に置くことだ。一定期間たっても契約開始が遅れる場合、どのサービスの販売方法を変え、どの育成計画を組み直すかを話し合う。未達を報告する会議ではなく、前提が変わった箇所を確かめる場にする。現場が早い段階で難しさを伝えられるほど、経営は選べる手段を多く残せる。計画の修正を敗北と扱わない姿勢も、移行を支える条件になる。

4. 今後の道筋や教訓を考えてみる

メンバーズは10月9日の資料で、技能転換に時間を要する社員について、既存業務に取り組みながら新領域の案件へ段階的に参加する方針を示した。また、現時点で人員削減は計画していないとしている。これは実行方針であり、全員の転換が完了したという意味ではない。それでも、学びと実務をつなぐ道を用意するという点は、今後の進捗を見る重要な手掛かりになる。

編集部が今後確かめたいのは、新サービスの数より、移行した人が継続して顧客の役に立てているかである。受注までの日数が短くなったか、最初の案件の後にも仕事が続いたか、育成を担う経験者に負荷が集中していないか。売上の回復だけでなく、次の案件にも対応できる組織が育ったかを見る必要がある。

評価の仕方も転換に合わせたい。現場に従来の稼働目標だけを求めれば、目の前の仕事を離れて学ぶ時間を確保しにくい。一方、学習時間だけを評価すれば、顧客が対価を払う成果との接点が薄くなる。学習、共同での実務、単独で担える範囲という順番で進捗を確認し、管理者が詰まりを解く。転換の負担を個人の努力だけに委ねない運営が求められる。

低単価案件からの撤退は、過去の仕事や、そこで力を尽くした人の価値を否定することではない。顧客が求めるものに合わせて、経験の使い道を変える判断である。撤退する仕事、育てる能力、売れる時期を別々に見たうえでつなぐ。その丁寧な調整こそが、事業転換を掛け声から持続する仕事へ変えていく。

参考資料(2026年10月10日確認)

Sources

FAQ
Q. なぜ旧業務を止めても新事業の売上がすぐに立たないのですか?+

契約化されるまでに複数のプロセス(顧客の予算承認、要件整理、データ整備、社内調整)が必要なためです。提供側でもサービスのプロダクト化、社内の習熟、営業の説得材料(事例・PoC)が整うまで時間がかかります。短期的には“需要を見つける”ことと“売上として回収する”ことは別物と考える必要があります。

Q. 担当者の空き時間と新しい仕事に使える時間をどう合わせればいいですか?+

段階的なフェーズアウトとフェーズインを設計します。具体策は、(1)撤退案件を段階的に縮小して閑散期を分散、(2)クロストレーニングとジョブシャドウイングで習熟期間を短縮、(3)社内ブリッジ案件や短期の内製プロジェクトで実務機会を用意、(4)外部パートナー/派遣を利用して需給ギャップを吸収、です。配置変更は“時間的重なり”を前提に計画すると精度が上がります。

Q. 低単価案件を減らすと指標はどう変わる?経営的に注意すべき点は?+

平均単価・案件単価は上がる一方で稼働率が低下すると総売上・利益は下がり得ます。注視すべきは売上総額、稼働率(売上に結びつく稼働時間/総稼働時間)、一人当たり売上、キャッシュフローです。短期的な指標の改善(平均単価)に惑わされず、採算性(粗利、営業利益)と現金確保を優先してください。

Q. 顧客への説明や契約面でどんな工夫が有効ですか?+

顧客側の導入障壁を下げるため、段階的契約(PoC→スケール)、リテイナー型(月額で支援を続ける)、移行支援(旧業務の一定期間フォロー)、成果連動型の一部導入等を提案します。さらに導入に必要なデータ整理や役割定義の支援をセットにすると発注に繋がりやすくなります。

Q. AI関連サービスの売上化を早める具体的な施策は?+

製品化(テンプレート化)と業界特化、短期間で価値を示す有料PoC、既存顧客へのクロスセル、パートナー連携(データ整備やインテグレーションの外注)、内部でのショーケース事例作成を同時並行で進めます。営業には成功事例と標準提案パッケージを持たせ、顧客のROIを明示することが重要です。

Q. 事業転換期間に管理すべきKPIは何ですか?+

推奨KPIは、パイプラインの段階別ボリューム(興味→PoC→契約化までのリードタイム)、PoC→受注転換率、稼働率(利用時間率)、一人当たり売上・粗利、顧客別平均契約金額、現金残高・キャッシュランウェイです。これらを週次/月次で追い、乖離が出たら速やかに施策(採用・外注・価格調整)を打ちます。

※ 投資・法務・税務の具体的な判断については、必ず専門家にご相談ください。 あまねキャリア株式会社は、本コンテンツの利用によって生じたいかなる損害についても責任を負いません。

この記事についてLINEで相談するご相談内容はLINE公式アカウントで承ります。

この記事が役に立ったらシェアしてください

Contact

EXIT戦略について相談する

M&A・事業売却・事業承継に関するご相談・ご質問はお気軽にどうぞ。

フォームが表示されない場合は、LINEの相談窓口をご利用ください。

Newsletter

メール登録の受付を一時停止しています

メールの新規登録は一時停止しています。
公開中のレターは引き続きサイトでお読みいただけます。
ご相談・お問い合わせはLINEからご連絡ください。

LINEで問い合わせる
LINEで相談する